バセドウ病の治療に手術を選択するのはどのような場合でしょう。
①副作用のため抗甲状腺剤が使用できない。
②長期間、抗甲状腺剤を服用しているが寛解しない。
③甲状腺機能のコントロールを早期に望む。
④バセドウ眼症がある、若年のため、アイソトープ治療が選択できない。
⑤甲状腺内に腫瘍がある。
⑥甲状腺が大きい。
このような方がバセドウ病の治療に手術を選択されます。
手術は甲状腺を小さく切り取ることで、
甲状腺ホルモンの分泌量をコントロールします。
他の治療法と比較して治療効果は短期間に現れ、
ほとんどの方で手術の翌日から抗甲状腺剤の服用が中止されます。
バセドウ病の手術治療の目的は、
甲状腺機能をコントロールすることといっても過言ではありません。
欧米諸国ではバセドウ病の再燃を防ぐため、
甲状腺全摘術が多く選択されます。
日本では甲状腺機能を正常に近づけることを目的に、
多くの医療機関で甲状腺を一部残す、
甲状腺亜全摘術が選択されてきました。
以前の亜全摘術ではバセドウ病の再燃が多くみられたため、
現在では残す甲状腺の量をより少なくする傾向にあります。
残した甲状腺が十分にホルモンを供給できない時には
甲状腺ホルモン剤(チラージンS)で補充を行います。
抗甲状腺剤が使用できない場合、
バセドウ病が再燃すると治療が困難となるため、
このような方には再燃を防ぐ目的でできるだけ残す甲状腺の量を
少なくします。
バセドウ眼症がある方、妊娠を希望される女性にはバセドウ病の
原因となる甲状腺刺激抗体(TRAb)が手術後に低下することを期待して
残す甲状腺の量を少なくします。
甲状腺ホルモンの過剰分泌を押さえ込む抗甲状腺剤に比較して、
足りない分を補う甲状腺ホルモン剤投与は長期にわたり安全に
甲状腺機能をコントロールできます。
バセドウ病の方の甲状腺は大きく、血流が豊富で、
出血しやすいという特徴があります。
首の傷、副損傷の危険性、術後出血の危険性、
甲状腺クリーゼの回避、術後の血清カルシウム値変動の知識など
甲状腺手術に熟練した外科医を必要とします。
手術の前には甲状腺機能が正常化していることが重要です。
抗甲状腺剤をきちんと服用していただくこと、
薬が使えない場合はヨード剤や、副腎皮質ホルモン剤、
ベータブロッカーなどを併用してより安全な手術が行えるよう備えます。
伊藤病院 外科 矢野由希子